Section 2.4 展開と因数分解
Subsection 2.4.1 計算法則
四則演算のうち加法と乗法では、計算法則と呼ばれる次の法則が成り立つ。計算や証明を行うときには、この計算法則を活用することが基本となる。
定理 2.16. 計算法則.
\(a, b, c\)を実数とするとき、次の等式が成り立つ。これらの計算法則は、加法や乗法以外の、減法や除法では成り立たない。また、文字の列(文字列)について「カイ」と「イカ」が異なるように、数学以外の世界でも、交換法則が成り立たないことが多い。 また、結合法則が成り立つことで、3つ以上の数の和や積を考える場合も順序を考慮しなくて良くなる。そのため、括弧を書かずに和や積を\(a + b + c\)や\(abc\)と書くことができるようになる。
Subsection 2.4.2 展開と因数分解
計算法則を利用して式変形することで、便利な公式が得られることがある。
定理 2.17. 展開・因数分解の公式1.
\(a, b, c, d\)を実数とするとき、次の等式が成り立つ。証明.
計算法則を利用した式変形の例として、展開や因数分解がある。
定理 2.18. 展開・因数分解の公式2.
\(a, b, c\)を実数とするとき、次の等式が成り立つ。これらの等式で左辺から右辺に変形する操作を展開、右辺から左辺に変形する操作を因数分解という。証明.
Subsection 2.4.3 襷掛けによる因数分解
特に因数分解は、方程式の解を求めるときに用いられる。式を因数分解して\((x - a)(x - b) = 0\)の形に変形できれば、\(x - a = 0\)か\(x - b = 0\)の少なくとも一方が成り立つ。 \(x\)は同時に2つの値をとることはできないので、\(x = a\)または\(x = b\)となり、方程式を満たす\(x\)の値を求められる。 ここでは、「\(AB = 0\)であれば\(A = 0\)か\(B = 0\)の少なくとも一方が0である」ことを用いている。
より高度な因数分解として、襷掛け(たすきがけ)と呼ばれる、次の式に基づく因数分解がある。
定理 2.19. 展開・因数分解の公式3.
\(a, b, c, d, x\)を実数とするとき、次の等式が成り立つ。証明.
この等式は、展開を行う場合には普通に展開しているのとほぼ変わらないため、あまり役立たない。 因数分解を行う場合には、\(a, b, c, d\)が比較的小さな数や簡単な式である場合は、次に示す襷掛けという方法で因数分解を行うことができる。
Algorithm 2.20. 襷(たすき)掛け.
\(Ax^2+Bx+C\)を\((ax + b)(cx + d)\)の形に因数分解する場合、次のようにする。「掛けて\(x^2\)の係数(\(A\))」になる2数\(a, c\)を適当に選び、選んだ2数と\(A\)を縦に並べて記す。
「掛けて定数項の係数(\(C\))」になる2数\(b, d\)を適当に選び、選んだ2数と\(C\)を(1)で記した右側に縦に並べて記す。
\((\text{左下の数}c) \times (\text{右上の数}b) = bc\)と\((\text{左上の数}a)\times(\text{右下の数}d) = ad\)を、(2)で記した右側に縦に並べて記す。
(3)で記した2数の和(\(ad + bc\))が\(x\)の係数(\(B\))に一致すれば、この\(a, b, c, d\)は正しい組み合わせなので因数分解できる。一致しなければ(1)へ戻る。
襷掛けの手順を図2.21に示す。
Subsection 2.4.4 解の公式の利用
襷掛けは\(a, b, c, d\)が比較的小さな数や簡単な式である場合は便利な方法だが、そうでない場合は、次に示す2次方程式の解の公式を用いる方が早いことも多い。