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Section 3.5 様相論理

述語論理の特別な例として、事象のあり方や捉え方を扱う様相論理(modal logic)がある。

Subsection 3.5.1 「必ず」「ありうる」

これまで扱った命題と同様に、「必ず〜となる」「〜となることがありうる」という文も、真偽が確定するので命題だといえる。 様相論理は、このような必然性や可能性についてのいろいろな命題を扱うための論理である。

定義 3.34. 「必ず」「ありうる」.
命題\(P\)に対して、「\(P\)が成り立つことが必然(necessary)である」「必ず\(P\)となる」という命題を\(\Box P\)と表す。 また、「\(P\)が成り立つことが可能(possible)である」「\(P\)となりうる」という命題を\(\Diamond P\)と表す。

Subsection 3.5.2 可能世界

\(\Box P\)や\(\Diamond P\)は、次に定義する可能世界(possible world)の考え方を用いると、述語論理の記号で表せる。

将棋や囲碁のようなゲームでは、対局の途中のある盤面について、駒を進めたり置いたりすることで、次の盤面に進む。 多くの場合、駒の進め方や置き方は複数ありうるので、「次の盤面」も複数ありうる。 このときの「今の盤面」と「次の盤面」のように「現在の世界」と「次の時点の世界」を考え、「ありうる世界の集合」を定義したときの要素を可能世界と呼ぶ。

定義 3.35. 可能世界を用いた「必ず」「ありうる」の表現.
可能世界の集合を\(W\)、可能世界\(w\)で事象\(P\)が成り立つかどうかを命題関数\(P(w)\)で表すとき、次のように\(\Box P, \Diamond P\)を定義できる。
\begin{align*} \Box P &\iff \forall w \in W, P(w)\\ \Diamond P &\iff \exists w \in W, P(w) \end{align*}
つまり、\(\Box P\)は「すべての可能世界で\(P\)が成り立つ」こと、\(\Diamond P\)は「ある可能世界で\(P\)が成り立つ」こととして定義できる。

Subsection 3.5.3 「必ず」「ありうる」の否定

可能世界の考え方と述語論理の記号を用いると、「必ず」「ありうる」を含む命題の否定を定義できる。 この関係は、de Morganの法則に対応している。

\begin{gather*} \overline{\Box P} \iff \overline{\forall w \in W, P(w)} \iff [\exists w \in W, \overline{P(w)}] \iff \Diamond \overline{P}\\ \overline{\Diamond P} \iff \overline{\exists w \in W, P(w)} \iff [\forall w \in W, \overline{P(w)}] \iff \Box \overline{P} \end{gather*}

Subsection 3.5.4 さまざまな様相論理

様相論理では、可能世界の集合\(W\)の定義を変えることで、「必ず」「ありうる」以外にも、さまざまな事象のあり方や捉え方を扱うことが可能である。 ここでは、そのような様相(mode)のいくつかを紹介する。義務を扱う論理は義務論理、時間を扱う論理は時相論理と呼ばれる。

3.37. 様相の例
対象 \(W\)の要素 \(\Box P\)の定義 \(\Diamond P\)の定義
可能性 可能な世界 「\(P\)が成り立つことは必然である(必ず)」 「\(P\)が成り立つことが可能である(ありうる)」
義務 「よい」世界 「\(P\)をする義務がある(しなければならない(must))」 「\(P\)をする許可がある(してもよい(may))」
場所 場所 「どの場所でも(どこでも(anywhere))\(P\)が成り立つ」 「ある場所で(どこかで(somewhere))\(P\)が成り立つ」
時間 時点 「どの時点でも(いつでも(anytime))\(P\)が成り立つ」 「ある時点で(ときには(sometime))\(P\)が成り立つ」
未来 現在より後の時点 「どの未来でも\(P\)が成り立つ」 「ある未来で\(P\)が成り立つ」
過去 現在より前の時点 「どの過去でも\(P\)が成り立つ」 「ある過去で\(P\)が成り立つ」