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Section 1.1 数学を学ぶ背景

我々は一人ひとり異なる心と体をもち、一人ひとり異なる環境の下で生活している。 生活においては、日々多様な事柄に出会い、刺激を受ける。我々はそうした経験を元に、今後の生活でよりよく生きるために学習している。

だが、我々の人生は有限であるので、生まれてから死ぬまでの間に学べる事柄の数は限られている。 そのため、今まで学んでいない事柄や、今まで出会っていない事柄に出会った場合は、過去に学習した事柄を応用して試行錯誤(try-and-error)を行うことになる。 これらの試行は上手くいくこともあれば、失敗することもあるが、既に他の誰かが似た試行錯誤を行い、上手く行った方法や例をまとめていれば、試行が成功する確率は高くなる。

この「上手く行った方法や例」を知識(knowledge)としてまとめたものが、「科学(science)」や「学問」と呼ばれるものである。 そのため、科学で最も重要なことは、「知識が正しいこと」である。

ある知識が正しいものであるといえるためには、誰でもその知識を使うことができ(一般性)、誰もが知識の正しさを確かめられる(客観性)ことが必要である。 これらを保証するのが論理(logic)である。

科学のうちで論理を中心に扱うのは論理学だが、一般的な教養として学ぶ内容としては、論理学は高度に抽象化されていて、実用と結びつけにくいという難点がある。 そこで、論理学ほどではないが、ある程度の抽象性を保っている学問として、数学(mathematics)を学ぶことが一般的になっている。 数学は初等教育で学ぶ算数(arithmetic)の延長線上にあるため、数は論理を学ぶための素材として扱い、数学で論理を学ぶというのが標準的な流れである。