Section 3.4 述語論理
命題論理を拡張し、「すべて」「ある」などを扱えるようにした枠組みを述語論理(predicate logic)という。
Subsection 3.4.1 命題関数
命題論理では、文を命題という単位で扱い、命題を組み合わせてより複雑な命題を表した。 命題には、「2は自然数である」「3は自然数である」「4は自然数である」のように、大半が同じで一部分のみが異なる命題がある。 これらの命題をまとめて表すために、命題関数(propositional function)を定義する。
定義 3.29. 命題関数.
変数\(x\)に値を代入すれば命題になり真偽が定まるものを命題関数(propositional function)といい、\(P\)という名前をつけた命題関数を\(P(x)\)のように表す。 2つの変数\(x, y\)に値を代入すれば真偽が定まる命題関数についても同様に、\(P(x, y)\)のように表す。例 3.30. 命題関数の例.
命題関数を用いると、命題関数\(P(x)\)が真になる\(x\)の集合は、内包的な表記で\(\{ x | P(x) \}\)と表せる。
Subsection 3.4.2 「すべて」「ある」
命題には、「2は整数である」のように具体的な数についての命題もあれば、「自然数は整数である」のように、数の集合についての命題もある。 「自然数は整数である」という命題は、自然数という集合の要素を書き並べると、「1は整数である」かつ「2は整数である」かつ「3は整数である」かつ…となり、「\(x\)は整数である」という形の文を「かつ」でつなげた命題と同値だといえる。 \(P(x)\)を「\(x\)は整数である」とすると、次のように表せる。
この命題は、自然数\(x\)について\(P(x)\)が常に成り立つときに真、そうでないときに偽となる。
定義 3.31. 「すべて」.
集合\(X\)のすべて(all)の要素\(x\)について\(P(x)\)が真であるという命題を\(\forall x \in X, P(x)\)と表す。 この記号\(\forall\)は全称量化子といい、「for all」または「any」の頭文字である「A」を逆さにした記号である。「すべて」が「かつ」に対応していると考えたとき、次のように文を「または」でつなげた命題を考えることができる。 「\(x\)は整数である」という形の文を「または」でつなげた命題は、次のように表せる。
この命題は、自然数のうちに\(P(x)\)が成り立つ\(x\)が存在するときに真、そうでないときに偽となる。
定義 3.32. 「ある」.
集合\(X\)のある(some)要素\(x\)について\(P(x)\)が真であるという命題を\(\exists x \in X, P(x)\)と表す。 この記号\(\exists\)は存在量化子といい、「exist」の頭文字である「E」を逆さにした記号である。Subsection 3.4.3 「すべて」「ある」の否定
「すべて」と「ある」を含む命題は、一方が他方の否定になるという関係がある。これは、英語における「any」と「some」の関係と同様である。
命題「すべての\(x\)について\(P(x)\)が成り立つ(\(\forall x \in X, P(x)\))」の否定は「ある\(x\)について\(P(x)\)が成り立たない(\(\exists x \in X, \overline{P(x)}\))」(部分否定)であり、「すべての\(x\)について\(P(x)\)が成り立たない(\(\forall x \in X, \overline{P(x)}\))」(全否定)ではないことに注意が必要である。 また、命題「ある\(x\)について\(P(x)\)が成り立つ(\(\exists x \in X, P(x)\))」の否定は「すべての\(x\)について\(P(x)\)が成り立たない(\(\forall x \in X, \overline{P(x)}\))」であり、「ある\(x\)について\(P(x)\)が成り立たない(\(\exists x \in X, \overline{P(x)}\))」ではない。
定理 3.33. 「すべて」「ある」の否定(de Morganの法則).
\(X\)を集合、\(P\)を命題関数とすると、次の等式が成り立つ。証明.
この関係は、命題論理におけるde Morganの法則に対応している。 ただし、集合\(X\)の要素が有限個ではない(無限集合である)場合には、de Morganの法則が成り立つかどうかは明らかではない。 そのため、述語論理におけるde Morganの法則は定理ではなく公理として扱い、de Morganの法則が成り立つという前提で議論することが多い。