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Section 4.3 コミュニケーションの継続と断絶

以上の4つの選択の後、受け手\(B\)が何らかの反応を行う場合はコミュニケーションが継続し、送り手と受け手が入れ替わって、次の情報の選択がなされる。 また、続けて送り手\(A\)が話す場合もコミュニケーションが継続し、再び\(A\)が送り手となって、次の情報の選択がなされる。 このいずれでもない場合は、コミュニケーションが継続せず断絶する。

Luhmannは、これら4つの選択を1つのコミュニケーションの単位とみなした。 そして、これが反復され継続していくのが円滑なコミュニケーションだとした[24]

定義 4.3. コミュニケーションの継続.
Luhmannのコミュニケーション・モデルにおける4つの選択が成功する事象を、それぞれ\(P_1, P_2, P_3, P_4\)と表す。 ここで、事象「\(P_1 \wedge P_2 \wedge P_3 \wedge P_4\)」が成り立つとき、コミュニケーションが継続するという。 また、コミュニケーションが継続しないことを、コミュニケーションが断絶するという。

この定義に従うとき、次のことがいえる。

\begin{align*} \text{コミュニケーションが断絶} \amp \iff \text{コミュニケーションが継続しない}\\ \amp \iff \overline{\text{コミュニケーションが継続}}\\ \amp \iff \overline{P_1 \wedge P_2 \wedge P_3 \wedge P_4}\\ \amp \iff \overline{P_1} \vee \overline{P_2} \vee \overline{P_3} \vee \overline{P_4} (\text{de Morganの公式}) \end{align*}

4つの選択のいずれかが成功しないことでコミュニケーションが断絶する例を表4.5に示す。

4.5. コミュニケーションが断絶する例
失敗した選択 事例
情報の選択に失敗 送り手が受け手にとって全く興味のない情報を伝えてしまう
表現の選択に失敗 送り手の表現がその情報を適切に表現するものでない
理解の選択に失敗 受け手が情報の内容や送り手の意図を理解できない
理解の受容の選択に失敗 受け手が理解することを受け入れない

これらの例が起こらないようにするには、それぞれの選択における主体だけでなく、相手側にも適切な配慮や考慮が必要である。 送り手と受け手が互いに情報の主観性を認識した上でコミュニケーションすることで、お互いが意図しないコミュニケーションの断絶を防ぐことができる。

注釈 4.6. Postelの法則.

インターネットで使われる通信プロトコルの1つであるTCPの仕様書[44]には、コンピュータ科学者のPostelが記した“Be conservative in what you do, be liberal in what you accept from others.”という一節がある。 和訳すると「情報を伝えるときは厳格に、受け取るときは寛容に」となるこの文言はPostelの法則と呼ばれ、通信の基本原則として広く知られている。