Section 10.1 介入の定義
Luhmannは、あるシステムがその行為を通して、他のシステムがどのように行為するか規定する行為を介入(interference)と呼んだ[25]。 端的にいえば、介入とは、他者や組織など他のシステムを変化させるために行うコミュニケーションである。 本章では、介入の対象となる他者や組織などのシステムを対象者(target)と呼ぶ。
定義 10.1. 介入.
\(S, S'\)をシステムとし、時刻\(t = T\)で\(S'\)が何らかの行為を行ったときの\(t = T + 1\)における\(S\)の状態を\(\hat{S}(T + 1)\)、\(S'\)が行為を行わなかったときの\(t = T + 1\)における\(S\)の状態を\(S(T + 1)\)とする。 このとき、\(\hat{S}(T + 1) \ne S(T + 1)\)であれば、システム\(S'\)はシステム\(S\)に時刻\(t = T\)で介入(interference)したという。勧誘、印象操作、プレゼンテーション、説得、檄文(げきぶん)、指示、命令などはいずれも、聴衆である心理システムの思考に明示的(explicit)に介入し、その言動の変容を促す行為である。 また、施設などにおける誘導、モノのデザインにおけるaffordや、Luhmannが介入の例に挙げた教育は、対象者に明示せずとも、特定の行為や学習を暗示的(implicit)に促す点で同様であり、これらもここでいう介入に当たる。
図10.2に、介入の概念図を示す。 図では、ある個人(心理システム)の現在の状態に対して他者(別のシステム)が介入している。 この介入により、本来のシステムのオートポイエーシスによって達する状態とは異なる状態に至らせる様子を、点線の矢印で示している。