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Section 4.2 コミュニケーションの段階

本章の例では、情報の送り手を\(A\)、受け手を\(B\)とし、\(A\)から\(B\)へのコミュニケーションを考える。

Subsection 4.2.1 情報の選択

Luhmannのモデルでまず行われる情報の選択では、送り手\(A\)と受け手\(B\)でやりとりされる情報が、送り手\(A\)により選択される。 この選択は、コミュニケーションが始まる際に送り手\(A\)が話題を探して選ぶこともあれば、それまでの会話の「流れ」や場の「空気」などの文脈から半ば自動的に選ばれることもある。

情報の選択により、表現と対応していない内容\(\beta\)のみの生命情報\((\varepsilon, \beta)\)が選択される。

Subsection 4.2.2 表現の選択

情報の選択に続き行われる表現の選択では、選ばれた生命情報をどう表現するかが、送り手\(A\)により選択される。

表現の選択は、送り手\(A\)が生命情報\((\varepsilon, \beta)\)の内容\(\beta\)を符号化することである。 表現の選択により、生命情報\((\varepsilon, \beta)\)の内容\(\beta\)が符号化され、表現と内容が対応づいた社会情報\((e_A(\beta), \beta)\)に変化する。 このとき、2.3節で述べた主観性により、どのような表現が選ばれるかは送り手\(A\)の主観に依存する。

\begin{align*} \text{表現の選択}: \ \text{生命情報} \amp\longrightarrow \text{社会情報}\\ (\varepsilon, \beta) \amp\longmapsto (e_A(\beta), \beta) \end{align*}

このように表現を選択することを、一般にデザイン(design)ともいう。 なおLuhmann[24]は、どのように伝達するかが選択されるという意味で、この選択を“伝達(utterance)の選択”と表現している。

Subsection 4.2.3 理解の選択

表現の選択に続き行われる理解の選択では、選ばれた表現をどう理解するかが、受け手\(B\)により選択される。 ここで、送り手\(A\)が社会情報\((e_A(\beta), \beta)\)として送り出した情報は、受け手\(B\)にとっては最初は機械情報\((e_A(\beta), \varepsilon)\)である。

理解の選択は、受け手\(B\)が機械情報\((e_A(\beta), \varepsilon)\)の表現\(e_A(\beta)\)を復号することである。 理解の選択により、機械情報\((e_A(\beta), \varepsilon)\)の表現\(e_A(\beta)\)が復号され、表現と内容が対応づいた社会情報\((e_A(\beta), d_B(e_A(\beta)))\)に変化する。 このとき、2.3節で述べた主観性により、どのような理解が選ばれるかは受け手\(B\)の主観に依存する。 そのため、送り手\(A\)が選択した情報がそのまま伝わるわけではなく、いわゆる「誤解」のように、送り手\(A\)の想定しない理解がなされることもある。 受け手\(B\)が内容を見出すのはあくまで主観的な行為なので、受け手の理解が送り手の想定と同じになる、つまり\(d_B(e_A(\beta)) = \beta\)となるとは限らない。

\begin{align*} \text{理解の選択}: \ \text{機械情報} \amp\longrightarrow \text{社会情報}\\ (e_A(\beta), \varepsilon) \amp\longmapsto (e_A(\beta), d_B(e_A(\beta))) \end{align*}

Subsection 4.2.4 理解の受容の選択

理解の選択に続き行われる理解の受容の選択では、選ばれた理解を受け入れるか否かが、受け手\(B\)により選択される。

情報の内容を受け手がある程度推測できたとしても、それを受け入れるか否かは受け手\(B\)の自由である。 「知っていても知らないふりをして」とぼけたり耳を塞いだりして意図の受け入れを拒絶することは、日々のコミュニケーションで多々ある。

理解を受け入れるか否かを選ぶことで、受け手\(B\)は社会情報\((e_A(\beta), d_B(e_A(\beta)))\)を生命情報\((\varepsilon, d_B(e_A(\beta)))\)として取り込むか、取り込まないかを決定する。 受け入れるのであれば、受け手は次のコミュニケーションにおける情報の選択として、好意的な返答を返すことになる。 受け入れないのであれば、受け手は次のコミュニケーションで否定的な返答をしたり、そもそも無視して返答しなかったりする。