Section 10.4 暗示的な介入
対象者に特定の行為を促すことを明示しない暗示的な介入では、対象者が特に意識せずとも、自然と求める行為を行うようにする必要がある。 特に、特定のモノを対象者が使う場合のように、対象者が目の前にいないモノのデザインの場合には、明示的な介入が行えないため、暗示的な介入が重要である。 また、明示的な介入の場合であっても、暗示的な介入を併用することで、求める行為をより強く促すことが可能になる。
GibsonやNormanは、あるモノとその対象者の間の関係をアフォーダンス(affordance)と呼び、アフォーダンスを伝えるデザインの重要性を示した[103][104][105]。 例えば、部屋に入る「扉」がある場合には、対象者はその「扉」を「開く」ことで、部屋に出入りすることが可能になる。 このとき、「扉」と「対象者」の間には「開くことができる」という関係、つまりアフォーダンスがあるといい、「扉」は「開くこと」をaffordするという。
この「扉」を対象者が適切に使うためには、扉に「ノブ」や「取っ手」を設置し、「この扉を開けることができる」ことを対象者に示す必要がある。 このように対象者にアフォーダンスを伝え、そのモノの使い方を示すモノを、Normanはシグニファイア(signifier)と呼んでいる[104][105]。 また、実際に「扉」に設けられた「ノブ」や「取っ手」を、「扉」を使うためのインタフェース(interface)またはユーザインタフェース(user interface)という。
シグニファイアは対象者にアフォーダンスを想起させるものであるため、ピクトグラムなどと同様に、社会情報の一種である。 社会情報でいうところの「表現」にシグニファイアが、「内容」にアフォーダンスが対応する。 なおSaussureのいうシニフィアン(signifiant)は、フランス語におけるsignifierの現在分詞形であり、シグニファイアと同じものである。