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Section 7.3 還元の条件

還元主義に基づく分析では、複雑な対象をより細かい対象に分割し、元の対象よりも単純な分割後の対象を分析することで、元の対象を理解できる。 一方で、適切な分割を行わなければ、検討すべき対象を見落としたり、重要な部分を見過ごしたりする可能性がある。 そのため、還元による分析の際は、分割が適切かどうかを検討する必要がある。

Subsection 7.3.1 還元性

ある集合\(A\)を、部分集合\(A_1, \cdots, A_n (\subset A)\)に分割できるとする。 ある性質について還元主義で分析するためには、まずその性質について、集合\(A\)に還元性があることが必要である。

定義 7.2. 還元性.
集合\(A\)に対して、部分集合\(A_1, \cdots, A_n (\subset A)\)があるとする。 \(A\)や\(A_i\)がもつある性質を数値化する関数を\(m\)とおくとき、
  • \(m(A) = m(A_1) + \cdots + m(A_n)\)となるなら、\(A\)はその性質について還元性があるという。

  • \(m(A) \neq m(A_1) + \cdots + m(A_n)\)となるなら、\(A\)はその性質について創発性があるという。

Subsection 7.3.2 MECE

ある性質について還元性のある集合\(A\)は、その性質について集合を分割することができる。 このとき、\(A = A_1 \cup \cdots \cup A_n\)と分割できるが、この分割が適切な分割だとは限らない。 図7.3、図7.4、図7.5に、分割で起こりうる可能性を示す。

\(A\)の要素のうち、\(A_1, \cdots, A_n\)に含まれない要素があり、図7.3のように「漏れ」が生じることがありうる。 分割に「漏れ」があると、必要な要素を見落として分析することになり、正しい解に到達しない。

また、\(A_1, \cdots, A_n\)に同じ要素を含む集合があり、図7.4のように「重複」が生じることがありうる。 分割に「重複」があると、必要な要素を複数回分析することになり、効率の良い分析ができない。

以上のような誤りを避けると、図7.5のように\(A\)を漏れなく(Collectively Exhaustive)重複なく(Mutually Exclusive)分割する\(A_1, \cdots, A_n\)をとることができる。

7.3. 漏れがある場合
7.4. 重複がある場合
7.5. 適切な分割(MECE)
定義 7.6. Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive (MECE).
集合\(A\)に対して、部分集合\(A_1, \cdots, A_n (\subset A)\)があるとする。 このとき、次の2つの条件を満たすならば、\(A_1, \cdots, A_n\)は\(A\)のMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)な分割、または直和(ちょくわ)であるという。
  • 任意の\(i, j (i \neq j)\)について、\(A_i \cap A_j = \emptyset\)が成り立つ(Mutually Exclusive) (このとき、\(A_1, \cdots, A_n\)は互いに素な集合であるという)

  • 任意の\(a \in A\)について、\(a \in A_i\)となるような\(i (= 1, \cdots, n)\)が存在する(Collectively Exhaustive)

注釈 7.7. 「互いに素」を表す記法.
\(A_i\)と\(A_j\)が互いに素な集合であるとき、\(A_i\)と\(A_j\)の和集合\(A_i \cup A_j\)を、互いに素なことを強調して記号「\(\sqcup\)」を使い、\(A_i \sqcup A_j\)と表すことがある。 同様に、\(A = A_1 \cup \cdots \cup A_n (= \bigcup_{i=1}^n A_i)\)となる分割が直和のとき、\(A = A_1 \sqcup \cdots \sqcup A_n (= \bigsqcup_{i=1}^n A_i)\)と表すことがある。