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Section 8.6 オートポイエーシスの影響

システムにおいて、オートポイエーシスはそのシステムの機能や特徴を強める方向に作用する[31]。 例えば心理システムの場合、オートポイエーシスにより思考が深化することで、その個人の思想や信条として固定化していく。

社会システムの場合には、オートポイエーシスにより組織の各部分がその機能や特性を強めた結果、組織全体の関係が薄くなり、組織の各部分がより専門的な組織として分かれていく。 この現象を、その社会の機能的分化という[30]

定義 8.24. システムの機能的分化.
システム\(S\)に時刻\(t = T\)で生じたオートポイエーシスにより、\(S(T) = S_1(T) \sqcup S_2(T)\)と準分解できるようになったとする。 このとき、システム\(S\)は時刻\(t = T\)で\(S_1\)と\(S_2\)に機能的分化したという。

社会システムである組織の場合は、ある組織内のルールが成果メディアとして働くと、そのルールはより強固なものとなり、他の組織との差異を増大させる。 例えば、陸上部には陸上部のルールが存在する。 陸上部の部員がそのルールに従いながらも少しずつ変化させていくことにより、陸上部の独自性が増す。 バスケ部にはバスケ部の、吹奏楽部には吹奏楽部の文化や伝統が存在し、時間を経るごとにその独自性や特異性は増していく。

社会の機能的分化は、その社会に属する組織の高度化や専門化を促進する。 例えば、大学院の研究室では、他大学の同系列の研究室とも違う、より専門的な学問が醸成される。 その結果、その研究室で研究される内容はより高度なものになり、また専門的なものになっていく。

注釈 8.25. 官僚制.
高度に分業された組織の例として、Weberは政府や中央省庁などの官僚制(bureaucracy)を挙げた[76]。 官僚制では機能的分化が進み、幾重にも階層化された分業体制が整備されている。 このような分業により、個人が担う業務は各自が処理可能な大きさになり、巨大な国家を維持することが可能になる。 一方で、Mertonは官僚制の弊害を指摘し、これを「官僚制の逆機能」と呼んだ[77]。 官僚制が「縦割り」と批判されるのは、政府のシステムとしての側面を軽視した構造となり、組織内の見通しが悪くなった結果である。