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Section 5.1 メディアとコミュニケーション

Luhmannのコミュニケーション・モデルに従うコミュニケーションを行おうとすると、いくつかの断絶があることが分かる。 例えばLuhmannのモデルでは、情報の送り手による表現の選択の後、すぐに情報の受け手が理解の選択を行う。 そのため、送り手は表現を「選んだ」だけで、実際には何も表現されていない。 どれだけ表現を工夫しても、考えただけで実際に表現しないのであれば、どう頑張っても受け手には伝わらない。

コミュニケーションの際にまず意識すべきことは、相手に自分の伝えたいことが伝わることはありそうにないということである[26][27][31]。 具体的な「ありそうにない(unlikely)」こととしては、次の2つが挙げられる。

  1. その場にいない相手とコミュニケーションができることはありそうにないことである。 遠く離れた場所にいる相手や、過去や未来にいる相手など、時間的・空間的に離れた相手とコミュニケーションすることは、本来ありえないことである。

  2. 相手に自分の主張が受け入れられることはありそうにないことである。 相手に自分の主張が伝わったとしても、自分と相手は別の人間であるので、相手が自分に理解を示してくれることは、本来ありえないことである。

従ってコミュニケーションは、本来「ありそうにない」ことが起こっているため、きわめて奇跡的な事象である。 このように「ありそうにない」ことが起き、実際にコミュニケーションが成り立つためには、情報の送り手と受け手のに、何らかのものが入り、コミュニケーションの成立を補助する必要がある。 一般的にメディア(media)と呼ばれるのは、このように情報の送り手と受け手の間に入るものである。