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Section 3.2 情報の定義

英語の単語としての「inform」は、動詞「form」に接頭辞「in」が付加されたものである[13]。 「in」は「内側」を、「form」は「形成させる」を意味するため、informの原義は「内側に形成させる」ことである。

\begin{equation*} \text{inform} = \text{in (内側に)} + \text{form (形成させる)} \end{equation*}

通常、「inform」は「I inform you of the changes.」のように使い、ここでいう「you」など、対象を示す目的語をとる。 そのため、「in」で示される「内側」は、informの対象となる相手の内側を指す。 通常は、informの対象は人間を含む生命であるから、情報(information)は、「生命の内側に『何か』を形成させる『何か』」と定義できる。

前者の『何か』は、生命の内側に形成される印象、感情、認識などであり、これらは、その生命にとってのその情報の内容である。 後者の『何か』は、前者の『何か』を形成させるものであり、表現である。 従って、情報は「表現と内容の組」だと定義できる。

定義 3.1. 情報.
表現\(\alpha\)と内容\(\beta\)の組\((\alpha, \beta)\)を、情報(information)という。 \(\alpha\)や\(\beta\)のいずれかには、通常の表現や内容以外に、「何もない」ことを表す空列(くうれつ)\(\varepsilon\)を含めてもよいものとする。
\begin{equation*} \text{情報} = \{ (\alpha, \beta) | \alpha: \text{表現}, \beta: \text{内容} \} \end{equation*}

例えば、\(A\)さんが「菖蒲」という漢字を見て「植物のショウブ(🌱)」を思い浮かべたとき、文字「菖蒲」は後者の『何か』(表現)に、想起された「🌱」は前者の『何か』(内容)にあたる。 このとき、表現と内容の組\((\text{菖蒲}, \text{🌱})\)は情報である。

この情報の定義に現れる『何か』、つまり「表現」や「内容」とされるものが実際には何であるかには、複数の見解がある。 西垣[14]は『何か』を「パターン」だとして、情報を“それによって生物がパターンをつくりだすパターン”と定義した。 また、Batesonは『何か』を「差異」、つまり複数のものの間にある違いだとして、情報を“差異をつくる差異”と定義した[16]

注釈 3.2. 個人情報とプライバシー.

近年、個人の権利が尊重される中で個人情報やプライバシーが重視されている。

個人情報は個人情報保護法[97]の第2条で、“生存する個人に関する情報”であって、次のいずれかにあたるものとして定義される。

  1. “当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)”

  2. 個人識別符号が含まれるもの”

即ち図3.3のように、ある情報を見たときに、その情報に含まれる記述や表現、字体などから、特定の個人を想起できれば個人情報となる。 また括弧書きにあるように、氏名や住所などが含まれていないため、その情報単体では個人と結びつかなくとも、簡単に入手できる他の情報と合わせることで特定の個人を想起できるものも、個人情報に該当する。 具体的には、ニックネームと所属校の組み合わせ、SNS上で近況を記した複数のメッセージの組み合わせなどは、特定の個人を想起しうるので、これらは個人情報となりうる。 なお、たとえ個人の氏名が公開されていても、大抵の場合は同姓同名の別人がいるため、それ単独では個人を特定するには至らないことが多い。 そのため、氏名単体では個人情報とはいえない。

3.3. 個人情報

一方、プライバシー(privacy)は、他人に知られたくない私的な情報を指す。 ある情報を「他人に知られたくない」と思うか否かは人それぞれ異なるため、住所やメールアドレスなどがプライバシーに当たると感じる人もいれば、これらを公開しても構わないと感じる人もいる。 定義から明らかなように、個人情報とプライバシーには重なる部分もあるが、異なる概念であることに注意が必要である。

プライバシーの公開を制限したり管理したりする権利をプライバシー権という。 プライバシー権には、顔写真などの肖像(しょうぞう)に関するプライバシー権である肖像権などがある。 最近では、プライバシーの削除に関するプライバシー権として「忘れられる権利」も国際的に認められつつある。