Skip to main content

Section 5.5 メディア・リテラシーとコミュニケーション能力

いわゆるメディア・リテラシーは、メディアを「読み書き」する能力と定義される[47]。 このリテラシー(literacy)は、「読み書きそろばん」のように、小学校で習う程度の基本的な技能のことを意味している。 メディア・リテラシーは、文字の読み書きのようにメディアを「読み書き」する能力として、比喩的に表現されたものである。

定義 5.7. メディア・リテラシー.
次の2つの能力を合わせてメディア・リテラシー(media literacy)という。
  • 情報の受け手としてメディアを批判的に「読む」能力

  • 情報の送り手としてメディアを活用して「書く」能力

一方で、コミュニケーションの送り手や受け手としての能力コミュニケーション能力と呼ぶ。 メディア・リテラシーとコミュニケーション能力は、同一の能力だと考えられる。 「メディア・リテラシー」と呼ぶか「コミュニケーション能力」と呼ぶかは、送り手と受け手の間に入るメディアに着目するか、送り手と受け手という人間に着目するかという着目点の違いである。

メディア・リテラシーの定義より、メディア・リテラシーを次の2つの能力の和として表せる。
\begin{gather*} (\text{メディア・リテラシー}) = (\text{メディアを「読む」能力}) + (\text{メディアを「書く」能力}) \end{gather*}
Luhmannのコミュニケーション・モデルによれば、「読む」能力は情報の選択と表現の選択に対応し、図5.3の右側にある楕円にあたる。 また、「書く」能力は理解と理解の受容の選択に対応し、図5.3の左側にある楕円にあたる。 従って、これらの能力はそれぞれ、コミュニケーションの受け手と送り手としての能力に対応する。
\begin{gather*} (\text{メディアを「読む」能力}) = (\text{コミュニケーションの受け手としての能力})\\ (\text{メディアを「書く」能力}) = (\text{コミュニケーションの送り手としての能力}) \end{gather*}
コミュニケーション能力の定義により、これらの能力の和がコミュニケーション能力であることから、
\begin{align*} (\text{メディア・リテラシー}) &= (\text{コミュニケーションの受け手としての能力}) + (\text{コミュニケーションの送り手としての能力})\\ &= (\text{コミュニケーション能力}) \end{align*}

4つの選択のうち、情報の選択と表現の選択は情報の送り手に、理解の選択と理解の受容の選択は情報の受け手に委ねられている。 情報を送り手がどう表現したかと、それを受け手がどう理解したかに、コミュニケーションの成否は大きく依存する。 従って、送り手が意図した通りのコミュニケーションができる保証は全くない。 コミュニケーションの際にこれを意識しておかなければ、言葉足らずな表現になったり、勘違いが起きたりして誤解を生むことになる。 そうした誤りが起きないよう、メディアから個人に与えられる現実イメージが正しいものかを批判的に捉えることや、誤った現実イメージを与えないよう表現を工夫することが必要になる。