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Section 11.5 科学における推論

実際に命題\(P\)の正しさを示す場面では、次の方法も使われる。

  • \(P\)を述べた文献を引いて示す 過去の論文、書籍、記事などで、\(P\)を述べた部分を根拠として示す。 重要な根拠の場合には、\(P\)を述べた部分を出典として引用することもある。 これは演繹に類似した方法だが、出典自体の正しさに疑義がある場合、\(P\)の正しさを保証できない。

  • \(P\)を実験調査シミュレーション統計で示す 実験や調査を直接実施する他、模擬的に現象を再現するシミュレーションや、過去に収集された統計などの事例を元に\(P\)を示す。 物理学や生物学、心理学や社会学では、演繹では正しさを示せない場合が多いため、この方法を使うことが一般的である。 これは帰納に類似した方法であり、一般化により\(P\)の正しさを示そうとするため、厳密性は十分でない。

  • \(P\)を確率的に示す \(P\)が偽となる場合が実際には存在しても、その場合がごく稀にしか生じないことが明らかな場合は、\(P\)が正しいものとして扱うことができる。 例えば、高い偶発性をもつなど極めて特殊な条件下でしか反例が生じない場合は、そうした場合を検討する必要性や意義が小さい。 \(P\)の反例が生じる確率により厳密性が左右されるため、本当に反例が生じる確率が十分に小さいかを吟味する必要がある。

  • \(P\)が真だと仮定する 理論を構築するにあたって必要な命題については、公理(axiom)や公準・原理・前提などと呼び、真だと仮定することがある。 これはあくまで「仮定」なので、その命題の正しさを示すわけではないが、正しさが十分に明らかだと考えられる場合には、この仮定を行うことができる。 数学や論理学など何らかの命題を仮定しないと理論を構築できない場合や、物理学や生物学で実際の観測を行えない場合に、はじめに仮定をおいて理論を構築する。

  • \(P\)を別の命題\(P'\)に変形(帰着)して示す より単純な別の命題に変形して解くことで、そのままでは複雑で扱いにくい命題\(P\)を示す。 文章で表された問題を数式に変形して解いたり、欲しい情報をキーワードに変形して検索エンジンに委ねたりした上で、得られた結果を解釈して元の問題の解とする。 変形した問題\(P'\)は、既に解が知られている問題であるか、時間的・経済的・人員的に解決できる問題である必要がある。

  • \(P\)を複数の命題\(P_1, P_2\)に問題分割(還元)して示す 命題\(P\)を複数の命題の組み合わせに分割することで、問題を明確化し示しやすくする。 \(P\)を「\(P_1\)かつ\(P_2\)」の形に分割する場合と、「\(P_1\)または\(P_2\)」の形に分割する場合がありうる。 前者には、手順のように順序で分割できるものや、複数の命題を元に\(P\)を示すものなどがある。 後者には、場合分けのようにいずれかの場合が満たされればよいものなどがある。

証明された命題の体系を理論(theory)や学問と呼び、その全体は科学(science)と呼ばれる。 その論理性と客観性により、科学は、一定の方法に従えば誰もが技能を身につけられる手順や、誰もが最適な判断を行うための知識を提供する。 科学を学び体系的な知識を得ることで、人間は試行錯誤や失敗の回数を最小限に抑えることができ、より高度で、より正しい行動を効率的に実行できるようになる。