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Section 8.3 システムの時間発展

時間の経過により、システムの要素が新たに生み出されたり、要素の間に新たな関係が生じたりして、構造が動的(dynamic)に変化する。 このようにシステムが自律的に作動し、自身で変化していく性質をオートポイエーシス(autopoiesis)または自己創発という[57][58]

Subsection 8.3.1 状態

それぞれの時刻でのシステムの構造を、そのシステムの状態(state)という。

定義 8.7. 状態.
ある時刻\(t\)におけるシステム\(S\)の構造を、\(S\)の時刻\(t\)における状態(state)といい、\(S(t) = (V(t), E(t))\)と表す。 ここで\(V(t), E(t)\)はそれぞれ、\(S(t)\)の要素の集合と構造である。 最初の時刻、即ち時刻0におけるシステムの状態\(S(0)\)を、システム\(S\)の初期状態(initial state)という。 またシステムの状態が一定になり、もはや変化しなくなったとき、その状態を定常状態という。

システムは要素の集合\(V\)と構造\(E\)の組\((V, E)\)であるから、システムの状態が変化すると、\(V\)か\(E\)の少なくとも一方が変化する。 \(V\)に新たな要素\(v\)が生じたとき、システムの定義より、\(v\)と他の要素\(v_k (\in V)\)との関係\((v, v_k) (\in E)\)も同時に生じる。 一方、\(V\)から要素\(v\)が消えたとき、システムの定義より、\(v\)と他の要素\(v_k (\in V)\)との関係\((v, v_k) (\in E)\)も同時に消える。 従って、システム\((V, E)\)の状態が変化することは、システムの構造\(E\)が変化することと同値であり、構造の変化についてのみ議論すればよい。

システムの構造が変化して状態が変化することを、オートポイエーシス(autopoiesis)または自己創発という。

定義 8.8. オートポイエーシス.
時刻\(t = T\)において\(S(T-1) \ne S(T)\)となるとき、システム\(S\)は\(t = T\)においてオートポイエーシス(autopoiesis)が生じた、または自己創発したという。

8.9に、システムのオートポイエーシスの模式図を示す。図8.9では、丸印でシステムの状態を示し、状態間を結ぶ矢印でオートポイエーシスを示した。

8.9. システムのオートポイエーシス
注釈 8.10. 力学系.

システムにおける動的な構造の変化を強調して、システムを力学系(dynamical system)や複雑系(complex system)ということがある。 この「力学」はdynamicalの訳語であり、物理における「力学」との直接的な関係はない。

力学系では、状態を\(n\)個の変数\(x_1, \cdots, x_n\)で表せると仮定する。 状態の変化を\(n\)個の関数\(f_1, \cdots, f_n\)で表せるとしたとき、力学系は次の\(n\)個の微分方程式で表される。

\begin{equation*} \frac{d}{dt} x_i = f_i(x_1, \cdots, x_n, t) (i = 1, \cdots, n) \end{equation*}

力学系は、初期状態の微小な差が系全体の挙動に影響するバタフライ効果など、カオス理論の基礎になっている。

Subsection 8.3.2 閉鎖性

円という点の集合が円周を境界に持つように、システムもまた境界をもつ。 例えば、学級という組織はその学級に所属している生徒からなるシステムであり、他学級の生徒はその外部にある。 このように、あるシステムの境界の外部を、そのシステムの環境という。

システムは、その境界の外側、つまり環境から影響されるかどうかにより、開放系、半閉鎖系、閉鎖系に分類できる。 ガラパゴス諸島の生態系のように、環境の影響を受けないシステム閉鎖系(closed system)という。 一方、入力に従って処理を行う情報システムのように、環境の影響を受けるシステム開放系(open system)という。

開放系は更に、間接的に環境から影響を受けるが、環境から直接影響を及ぼすことができない半閉鎖系(semi-closed system)と、直接的に環境から影響を受ける通常の開放系に分類できる。 半閉鎖系は、システムの内部から外部を観察し、外部の変化に反応することで、間接的に環境の影響を受ける。 内部からの観察や反応がなければ、外部からどれだけ強い刺激を与えても、半閉鎖系のシステムに影響を及ぼすことはできない。 また内部から反応がありシステムが変化した場合も、その反応が外部から与えた刺激の通りのものになるとは限らない。

8.11、図8.12、図8.13に、システムを閉鎖性により分類して示した。 図では、システムを円で、システムの境界を円周で表している。 外部の影響を受ける開放系(図8.11、図8.12)は点線で、外部の影響を受けない閉鎖系(図8.13)は実線とした。 また、システムが時間の経過と共に変化することを、境界に三角を付して表した。

8.11. 開放系
8.12. 半閉鎖系
8.13. 閉鎖系

8.14、図8.15、図8.16に、閉鎖性によるオートポイエーシスの違いを示す。 外部の影響を受ける開放系(図8.14)では、外部の変化によりシステムの状態が変化し、次の状態が決まる。 半閉鎖系(図8.15)では、外部が変化しても直接影響を受けることはないが、システム内部から外部の変化を観察することで外部の影響を受け、次の状態が変化することがありうる。 閉鎖系(図8.16)は外部から影響を受けないため、外部で生じた変化の影響を受けてシステム内部の状態が変化することはない。

8.14. 開放系
8.15. 半閉鎖系
8.16. 閉鎖系