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Section 3.3 情報の分類

情報\((\alpha, \beta)\)は、表現\(\alpha\)や内容\(\beta\)の内容が空列\(\varepsilon\)であるかどうかにより、次の3種類に分類できる。 この分類は、西垣[14][15]による分類を改変したものである。

定義 3.4. 情報の分類.
\((\alpha, \beta)\)を情報とする。
  • \(\alpha = \varepsilon\)となる情報\((\varepsilon, \beta)\)を生命情報(life information)という。

  • \(\alpha \ne \varepsilon, \beta \ne \varepsilon\)となる情報\((\alpha, \beta)\)を社会情報(social information)という。

  • \(\beta = \varepsilon\)となる情報\((\alpha, \varepsilon)\)を機械情報(machine information)という。

\begin{align*} \text{生命情報} \amp = \{ (\varepsilon, \beta) | \beta : \text{内容} \}\\ \text{社会情報} \amp = \{ (\alpha, \beta) | \alpha: \text{表現}, \beta: \text{内容} \}\\ \text{機械情報} \amp = \{ (\alpha, \varepsilon) | \alpha: \text{表現} \}\\ \text{情報} \amp = \text{生命情報} \cup \text{社会情報} \cup \text{機械情報} \end{align*}

生命情報、社会情報、機械情報を比較して図示すると、それぞれ図3.5、図3.63.7のようになる。 これらの図中では、アヤメを例として、情報の表現に当たる部分を下側に、内容に当たる部分を上側に表す。 また、相似記号(\(\sim\))で表現と内容の対応づけを表している。

3.5. 生命情報
3.6. 社会情報
3.7. 機械情報

これらの特徴をまとめると、図3.8のようになる。 日常で「情報」というときには、「情報」がこれらのいずれを指すかを考慮することが必要になる。

3.8. 情報の分類

Subsection 3.3.1 生命情報

表現\(\alpha\)が存在しない生命情報\((\varepsilon, \beta)\)は、生命の内部にしか存在しない。 人間が日常生活で行っている思考は、表現が存在せず内容のみで行っていることが多く、このようなものが生命情報の例である。

生命は、内容の蓄積により思考や行動を変化させることを繰り返して成長する。 梅棹[2]はそうした成長を、“人間存在の根底にかかわるおそろしく基本的な活動”だとし、情報は“生命活動の充足につながる”ものだとしている。

生命情報は表現が存在しないため、生命情報の例を直接挙げることは難しい。 だが、何らかの理由で符号化が上手くできない情報の例を考えればよい。 例えば、「上手く言葉で言い表せない思考が生命の内部でぐるぐる回り、精神的に負担に感じる」ことを、社会福祉や医療の分野では「もやもやする」と呼ぶことがある。 また、幼少期から複数の言語に触れた多言語話者(Multilingual)の場合、「この言語なら自分の思いを表現できる」といえる言語を獲得できない状況になることがあり、これをDouble limited(Semilingual)と呼ぶことがある。 これらの状況において、言語化できない状態で心の中にある事柄は、生命情報の例である。

Subsection 3.3.2 社会情報

内容\(\alpha\)と表現\(\beta\)が組になった社会情報\((\alpha, \beta)\)は、符号(code)や記号(sign)[18][9]ともいう。 社会情報は、内容と表現が対応づくことで、生命の外部でも存在しうる。 日本語や英語、手話などの言語(language)や、絵文字を使って特定の内容を表すピクトグラム(pictogram)などが社会情報の例である。 社会情報が存在しなければ、人間は言語を使うことができず、絵や声、身振りなどで情報を伝えることもできないため、人間は社会を維持できなくなる。 社会情報の存在により、人間は互いにコミュニケーションできるようになり、社会を維持することが可能になる。

言語は社会情報の代表例だが、Saussureは、言語における表現と内容の対応には何の必然性もないという性質を強調した。 Saussureはこの性質を言語の恣意性(しいせい)と呼び、言語の最も基本的な性質だとした[18]

Subsection 3.3.3 機械情報

内容\(\beta\)が存在しない機械情報\((\alpha, \varepsilon)\)は、データ(data)[22][23]ともいう。 日本語を知らない人にとっては、漢字を見ても内容を解釈できないため、このような漢字は機械情報の例である。 また、次式のように複雑な記号を使った数式も、定積分や極限などの記号の意味を学んでいれば理解できるが、記号の意味を学んだことがなければ理解できない。

\begin{equation*} \int_0^1 f(x) dx = \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^n \frac{1}{n} f(\frac{k}{n}) \end{equation*}

機械情報には表現のみで内容が存在しないため、コンピュータなどの機械による複製(copy)や処理が容易である。 情報の送り手の意図や、その情報に込められた内容を考えることは、機械にはできない。 内容を考慮せずに機械情報を扱うからこそ、機械は大量のデータを高速に処理でき、ネットワークを通じて送受信できる。 あらゆる情報を機械情報として扱うのがコンピュータなどの機械であり、内容を理解できる情報が存在し、その理解に基づいて行動するのが生命である、という表現もできる。

また、人間が仏教の経典を書き写す写経も、機械的な複製行為の例である。 写経により気分が落ち着いたり集中力が高まったりしたとしても、それは単に書き写す行為の結果であり、経典の内容とは無関係である。 一方で、経典を学び理解している僧侶は、その内容を解釈して読経できるため、僧侶にとって経典は社会情報になる。