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Section 10.3 明示的な介入

介入は対象者の変容を求める行為であるため、介入が必要な場面では、対象者に何らかの問題があると考えられる。 従って介入にあたっては、対象者について、現在の状態から目標とする状態に至る解を見つける問題解決を行うことが基本となる。

だが、システムは内部で変化するというオートポイエーシス性を考慮すれば、外部から行う問題解決だけでは、介入を達成できない。 即ち、対象者に行動することを要求したり、特定の思考様式を強制したりするといった、外部からの一方的な働きかけで対象者を変容させることはできない

従って適切な介入を行うには、対象者に対して、現状から目標へのオートポイエーシスを促す必要がある。 以下では、具体的な介入の方法例を述べる。

  1. 介入にあたり、まずは対象者に目標を示し、その状態が理想的なことを対象者が納得する必要がある。 対象者の納得を得るためには、対象者が何を欲しているか、何を求めているかという欲求を的確に捉えることが重要である。

  2. 対象者が目標に共感した後には、その目標に至る解を対象者に示すことが必要である。 いくら対象者の共感を得ても、望む状態に至る方法が分からなければ、目標に至らせることはできず、対象者の不満を募らせるだけである。 そこで、問題の解となる方法をできるだけ明確な形で示し、示した方法に従えば目標に辿り着けるようにする。

  3. 対象者が目標に至ることができる方法を提示した後には、対象者がその方法を実践できる環境を整えることが必要である。 例えば教育の場合であれば、適切な実習時間を確保するなどして、時間的、経済的、肉体的、精神的に実践できる環境を用意する必要がある。 また、対象者が方法を実践している際に困難に遭遇した場合や、疑問が浮かんだ場合に、教師や支援員など、対象者の変容を支援する体制があることも重要である。

注釈 10.3. Instructional Design.

Instructional Designは、教育を介入であると捉えて、授業やカリキュラムの設計を行う理論である[106]。 ここでいうinstructionは、いわゆる「教える」行為全般を指し、学び手(対象者)に対する介入を指す。

IDでは、対象者にとっての望ましい状態と現状の間に差があること、つまり対象者にとっての問題をパフォーマンス・ギャップと呼ぶ。 instructorは、この対象者が抱える問題への解として、一連の教育課程であるコースを提案する。 このコースは複数のinstructionが相互に関連しあい成立するため、単なるinstructionの集合ではなく構造をもつシステムである。

提案するコースにはまず、望ましい状態に向かう一貫性が必要である。 更に、相互のinstructionに関連があり、コースに一貫性があることを対象者が認識できなければならない。 対象者がコースの構造を認識できなければ、対象者はなぜinstructionに従うべきか理解できず、コースを学ぶ動機を失ってしまう。

問題の解には様々な方法があるため、解が「正しい」かどうかは一概に判断できない。 だが、対象者にとってその解がどれほど効果的かは、対象者が実際に問題を解決できたかを見れば明確に測定できる。 instructorには、多数考えられる解のうちで、最も対象者にとって効果的なものを提案することが求められる。