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Section 9.3 創発の方法

Guilfordによれば、具体的に創発を行うためには、次の2段階を経る必要がある[90]

  1. 思考を広げる(発散(divergent)させる)

  2. 思考を深める(収束(convergent)させる)

このときに重要なのが、思考の発散と収束を同時には行わず、思考を発散させた後に収束させることである。 つまり、「1つの案が出たらそれが良いかを検討し、ダメなら次の案を考える」のではなく、「考えられる案をすべて挙げた後で、それらの良し悪しを考える」のが良いとされる。 このように2つの段階に分ける理由として、次のものが挙げられる。

  • 実際の場面では限られた時間の中で創発を行う必要があるが、思考の発散と収束を交互に行うと、個々の案の吟味に時間がかかって良い案に辿り着かず、結局何もアイデアが出ないということが起こりうる。

  • 思考の発散と収束を交互に行うと、人間が思考を切り替えるのに時間がかかるため、創発の効率自体が低くなる。

  • 思考の発散と収束を交互に行うと、思考やコミュニケーションが同じ範囲を何度も行き来するため、アイデアの幅が広まらない

  • 思考の収束は批判的な姿勢で行う必要があるため、思考の発散と収束を交互に行うと、思考が萎縮して突飛なアイデアが生まれにくくなる。

Subsection 9.3.1 思考の発散

思考を発散させる段階では、組み合わせる元になる「既存の要素」について、現状でどのようなものが存在し、何が実現されていないのかといった知識が必要となる。 特に、まだ関連付けられていない複数の要素を組み合わせることから、複数の分野についての専門的な知識が必要である。

その上で、できるだけ多く、既存の要素を挙げ、思考を広げる必要がある。 これを機械的に行おうとすると、データベースなどに含まれるキーワードをすべて列挙することになるが、膨大な時間がかかる上に、挙げた要素が多くなりすぎて人間では処理しきれない。 そのため、その場にいる人間が思考やコミュニケーションを通して思いつくことを挙げる中で、徐々に思考を広げる方法をとるのが一般的である。

Osborn[88]によるBrainstormingは、集団で特定のテーマについてアイデアを出し、それぞれの思考の成果を付箋などに書き出して集積する方法である。 アイデアの質より量を優先し、突飛なアイデアを歓迎することで、より斬新な創発を行う。

de Bonoによる水平思考(lateral thinking)は、非論理的であってもより多くのアイデアを生み出すための方法である[89]。 目的とする創発を達成するため、伝統や慣習に基づく暗黙の仮定を排除し、あらゆる可能性を考慮することで、斬新なアイデアを生み出す。

より構造主義的な方法としては、Buzanのマインドマップ(mind map)や、Novakの概念マップ(concept map)がある。 これらの方法では、追加した要素を線で結び、他の要素と関連付けながら新たな要素を追加していくことで、アイデアを発想する。

Subsection 9.3.2 思考の収束

思考を収束させる段階では、無数にある既存の知識の組み合わせ方のうち、どの要素が関連するかを見出し、有用な組み合わせを見つけ出す必要がある。 物事の表層の類似性に囚われず、その深層にある繋がりに着目することで、強引なこじつけではなく、新鮮で自然な関連性を見出せる。

川喜田二郎は、Brainstormingなどで使った付箋のうち、類似するものをまとめて名前をつけることを繰り返す方法を提案した。この方法は、川喜田のイニシャルからKJ法と呼ばれる。

またde Bonoは、収束の段階では、正しい仮定に基づいて論理を展開する論理的思考が必要だとし、これを水平思考と対比させて垂直思考(vertical thinking)と呼んだ[89]