Section 8.2 システムの定義
Bertalanffy(ベルタランフィ)[52]によれば、システム(system)または系(けい)とは相互に作用しあう要素の集合である。 システムは、要素の集合\(V\)と、要素間の相互作用を表す\(V\)の構造\(E\)の組\(S = (V, E)\)として定義される。
定義 8.3. システム.
要素の集合を\(V = \{ v_i | i = 1, \cdots, n \}\)、\(V\)の構造を\(E = \{ e_{ij} | i = 1, \cdots, n; j = 1, \cdots, n; \}\)としたとき、組\((V, E)\)をシステム(system)または系(けい)という。 このとき、\(V\)の要素をシステム\((V, E)\)の要素といい、集合\(E\)をシステム\((V, E)\)の構造という。注釈 8.4. グラフ.
システムのように、点と、2点を結ぶ線の組をグラフ(graph)という。 グラフでは、「点」を節点(node)や頂点、「線」を枝(edge)や辺という。 数学の関数\(y = f(x)\)の概形を表す「グラフ」や、理科の実験で測定値に対応する点を繋いだ「グラフ」も、その関数が通る「点」を「線」で結んで表したものなので、ここでいうグラフの一種である。
グラフは節点と枝のみからなるため、節点の集合を\(V\)、枝の集合を\(E\)とすれば、グラフは\((V, E)\)と表せる。 グラフのうち、枝の2つの端点が区別できず、枝に「向き」がないグラフを無向グラフ(undirected graph)という。 一方、すべての枝に「向き」があるグラフを有向グラフ(directed graph)という。
以上のようなグラフに関する理論はグラフ理論と呼ばれ、ネットワークや送電網の分析など、工学の各方面で応用される。
集合についての和集合や共通部分と同様に、システムの相等性や、合併、共通部分を定義できる。
定義 8.5. システムの相等・合併・共通部分.
\(S_1 = (V_1, E_1), S_2 = (V_2, E_2)\)をシステムとする。 このとき、\(E_1 = E_2\)であれば、\(S_1\)と\(S_2\)は同じシステムであるといい、\(S_1 = S_2\)と表す。\(S_1 = S_2\)でないことを、\(S_1 \ne S_2\)と表す。
\(S_1 \cup S_2 = (V_1 \cup V_2, E_1 \cup E_2)\)を\(S_1\)と\(S_2\)の合併(union)という。\(V_1 \cap V_2 \ne \emptyset\)ならば、\(S_1 \cup S_2\)はシステムである。
\(S_1 \cap S_2 = (V_1 \cap V_2, E_1 \cap E_2)\)を\(S_1\)と\(S_2\)の共通部分(intersection)という。\(S_1, S_2\)がシステムなら\(S_1 \cap S_2\)はシステムである。
構造主義に基づく分析では、還元主義では分析しにくい要素間の関係、つまり相互作用を考慮するため、複数の要素が密接に関係し合う、ネットワークや社会の分析に適している。 一方で、要素間にある関係が明確でない場合や、関係の種類や形式が多様である場合が多く、現実で生じる現象をシステムとして表すのが難しい場合がある。
注釈 8.6. 実体関連モデルと関係データベース.
コンピュータで情報をデータとして蓄積し、利用できるようにしたものをデータベース(database)(DB)といい、データベースを管理するためのシステムをデータベース管理システム(database management system)(DBMS)という。 DBMSは、DBの情報の追加・削除を行うことや、DBから情報を検索し読み出すことができる。
現在広く使われるDBの多くが、Codd[79]の提案に基づく関係データベース(relational database)と呼ばれる種類のDBである。 関係データベースの設計には、Chenによる実体関連モデル(Entity-Relationship model)(ERモデル)[80]と呼ばれるモデルが使われる。 ERモデルでは、DBの作成対象を実体(entity)と、実体間の関連(relationship)と捉え、DBを作成する。 実体はシステムの要素に、関連はシステムの構造に対応しており、DBは現実のシステムをデータ化して機械的に処理するためのものだといえる。